Character's Information:
マリオン・シン・ブラック
本作主人公。「マリー」と呼ばれることが多い。幼少期に故郷を喪失し施設で暮らしていた。次世代の歌姫とも呼ばれる。能力は未知数。作中では16~19歳。
レオノール・ヴェガ
マリオンのパートナー。容姿から勘違いされることも多いが女性。マリオンとは士官学校の同期。マリオンのことが好きすぎる人で、マリオンの精神的支柱。レオンやレオナと呼ばれている。
アルマ・アントネスク
マリオンと並ぶ上位の「歌姫」。ピンクの髪に黒と青のメッシュを入れていて、「三色頭」と呼ばれている。サバサバした性格で、マリオンが大好き。幼少期にマリオンと出会っている。
レネ・グリーグ
上記三人の一年先輩。情報処理能力も歌姫の能力も非常に高い。優しい性格で、マリオンたちの良き先輩。二年生の頃から実戦遠隔支援を担当している。愛称はレニー。
マリア・カワセ
実質歌姫たち全員の上司。参謀部所属の大佐。ミステリアスな女性でバックグラウンドにも謎が多い。極めて重要な役を担う。30歳前後とみられる。
カティ・メラルティン
最強の飛行隊エウロスの隊長。大佐。「空の女帝」と恐れられる文字通り最強の戦闘機乗り。ヴェーラやレベッカとは士官学校の同期で、二人が信頼を寄せる数少ない人物。
レベッカ・アーメリング
第二艦隊司令官。愛称はベッキーだが、そう呼ぶのはヴェーラとイザベラのみ。マリオンの直属の上官。戦艦ウラニアを駆る最強の歌姫の一人。伝説の人である。
ヴェーラ・グリエール
レベッカを凌ぐとも言われる伝説の歌姫。2090年のライヴでマリオンたちと出会い、再会の約束をする。が……。
イザベラ・ネーミア
2096年に現れた歌姫。まぎれもなく最強。圧倒的な破壊を振りまく死の女神。仮面をつけているため、素顔は不明。レベッカだけはイズーと呼ぶ。
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国家

ヤーグベルテ中央連盟
 幾つもの国家が集まった巨大な勢力の一つ。総人口は10億を超える。アーシュオン共和国連合とは約百年間、慢性的に惰性的に戦争を続けている。

 「専守防衛」思想であったこともあり、「歌姫(後述)」登場以前は、主に迎撃対応をする空軍が最も発言力を持っていた。空軍の中でも特に力を持っているのが、「四風飛行隊」と呼ばれる部隊で、その中に「ノトス」「エウロス」「ボレアス」「ゼピュロス」という飛行隊がある。こと、「暗黒空域」ことカレヴィ・シベリウス大佐率いる「エウロス」、「異次元の手」ことエイドゥル・イスランシオ大佐指揮下の「ボレアス」飛行隊は、その圧倒的戦闘力で襲撃するアーシュオンの空軍・海軍を幾度となく駆逐した。

 (主に前述の飛行隊の活躍により)両勢力のパワーバランスはある程度の所で保たれていたが、アーシュオンが「オーパーツ」と呼ばれる超兵器を開発、投入してくることによって、やがて防衛思想のヤーグベルテは次第に不利な状況に陥っていく。ヤーグベルテの海軍も空軍も、超兵器潜水艦「ナイアーラトテップ」の前には手も足も出なかったのである。

 2080年、その危機的状況化に於いて「セイレネス」という技術が持ち込まれる。そして翌2081年、ヴェーラ・グリエールとレベッカ・アーメリングという二人の「歌姫(セイレーン)」が現れ、士官学校に入学する。その後、ヴェーラたちと共に研究を重ねられたセイレネスは、遠隔戦闘支援システムとしての性能を確立する。ヴェーラたちによるセイレネスでの戦闘支援能力は、通常艦隊の戦闘力を大幅に増強することができた。

 セイレネスの能力に目を付けた政府中枢は、2087年、「専守防衛の原則」の放棄を宣言する。その直後に、アーシュオン本土に大量の核搭載ICBM(大陸間弾道ミサイル)を撃ち込んでいる。(※2084年にアーシュオンの超兵器にして新兵器である「ISMT(インスマウス)」によって数百万もの人々が虐殺されたこともあり、国民はこの逆襲劇を歓迎した。そしてこのインスマウスによる空襲で、本作主人公のマリオンや親友アルマ、先輩のレネらは家族も故郷も失っている)

 なお、このICBM攻撃時に使われたのが「歌姫」の力(=セイレネス)だったが、その件については一切国民には明かされなかった。そのため、後述の「第一話(2088年)」に於いて、ヴェーラがわざわざ「デビュー戦」と口にすることになる。公には、セイレネスの力で直接的に「人を殺す」のは初めてだったからである。

 2088年の戦艦デビュー戦において、その圧倒的戦闘力を見せつけた海軍は、急速に勢力を増し、やがて空軍を凌駕することになる。この時すでに「暗黒空域」シベリウス大佐と、「異次元の手」イスランシオ大佐は共に戦死しており、空軍の「華」がいなかったという事情もある。なお、次世代の空軍の超エース「空の女帝」ことカティ・メラルティンがエウロス飛行隊の隊長として本格的に活躍し始めるのは、この後である。

 また、士官学校も従来は18歳~の4年制・大学扱いだったのだが、このあたりを境にして、15歳~の3年制・高校扱いに変わっている。これは逆襲に出始めたことによる兵力の大きな損耗に備えた措置である……というのは名目で、「歌姫(セイレーン)」と呼ばれる者たちを集め、一刻も早く戦線に投入するための施策である。ヴェーラたちが活躍し始めた頃を起点にして、「歌姫」の能力者が多数出現したことに起因する。

 そしてアーシュオンとヤーグベルテの軍事バランスは混迷の様相を呈していくのである。
アーシュオン共和国連合
 ヤーグベルテにとっては、長年の宿敵。先軍思想の国家であり、行動は極めて合理的。周辺の国家群と同盟を結び、ヤーグベルテに対してABCD包囲網(アーシュオン・べオリアス・キャグネイ・ダールファハスによる大包囲網)を敷き続けている。

 2080年代以降作られる多数の「超兵器(オーパーツ)」によって、ヤーグベルテを圧倒しはじめる。こと、艦隊に配備されている潜水艦・ナイアーラトテップ(通称・クラゲ)は脅威的な防御力と攻撃力を有しており、核魚雷でさえダメージを与えられなかった。また、航空母艦を一撃で撃沈せしめる近接戦闘力を有しており、ヤーグベルテの通常艦隊は完全に権威を喪失する。歌姫の戦艦が出てくるまでは……。

 そして、2084年、ヴェーラたちがまだ士官学校在学中に、開発されたばかりの超兵器・ISMT(インスマウス)による空襲を行う。その時にロイガーと呼ばれる無人戦闘機もお披露目されているが、インスマウスおよびロイガーに対しては、四風飛行隊をもってしてもほぼダメージを与えられずに撤退している。

 アーシュオンの持つ戦力は強大だったが、ヴェーラたちの登壇によって、その力も徐々に削ぎ落されていくことになる。というのは、ヴェーラおよびレベッカに対しては、通常兵器はもちろん、超兵器ですら損害を与えられなかったからである。数に勝るアーシュオンと、圧倒的戦力だが二人しかいない戦力の戦いとなったまま、戦況は再び泥沼化していくのだった。
軍事
海軍(ヤーグベルテ)
 2088年の2隻の戦艦(「セイレーンEM-AZ」および「ウラニア」)による作戦成功を機に、歌姫計画(セイレネス・シーケンス)主幹部門である「参謀部第六課」は、圧倒的な発言権を獲得することになる。

 海軍の保有する正規艦隊数は15。うち、第一、第二艦隊は、それぞれヴェーラとレベッカに率いられる特殊作戦群であり、ヤーグベルテ国土防衛の切り札である。また、第七艦隊には最新鋭航空母艦「ヘスティア」が配備され、「潜水艦キラー」の異名を持つリチャード・クロフォード提督が使用する。第一、第二艦隊の他に、アーシュオンが唯一恐れるのがこのクロフォード提督率いる第七艦隊である。なお、他の艦隊は2090年以降はほぼ哨戒任務に終始している。なぜならアーシュオンの超兵器を有する艦隊には決して勝てないからだ。

 第一、第二艦隊の作戦主幹は参謀部第六課が一手に担っており、初代統括のエディット・ルフェーブル大佐とヴェーラ、レベッカとの関係は良好であった。しかし、ルフェーブル大佐暗殺の後、統括の座についた前副統括アレクサンドラ・ハーディ中佐との関係はついに回復しなかった。その状況に危機を覚えた首脳部は、マリア・カワセ大佐をセイレネス開発元の「ホメロス社」から呼び寄せ、大佐待遇として取り扱うことを決定する。その後、カワセ大佐を通じて、歌姫(ヴェーラ、レベッカ)と、参謀部第六課との関係は(ある程度)回復する。
空軍(ヤーグベルテ)
 この世界の航空戦は、よく墜ちる。数 vs 数の集団戦になることが多く、戦死者も非常に多い。現代戦のような数機程度の空中戦は先ず発生せず、100 vs 100 程度はザラ。航空機のコストは大量生産の時代に入っていることもあり、我々の知っている新鋭戦闘機(200億円超)よりはかなり下がっている。ヤーグベルテでは一年あたり、200~300機(以上)を喪失するが、そのための予算は十分に計上できている。

 空軍の作戦主幹はアダムス大佐が統括する参謀部第三課。

 その中にあって伝説のパイロットというのが何名か存在している。カティ・メラルティン登場以前は「暗黒空域」カレヴィ・シベリウス大佐、「異次元の手」エイドゥル・イスランシオ大佐がその二強だったが、カティ登場後は、その二人が戦死していたこともあり、カティが一強となる。その渾名も「空の女帝(エアリアル・エンプレス)」。真紅の戦闘機がトレードマークの破壊神である。

 空軍に於ける花形は「四風飛行隊」と呼ばれる国防(邀撃)部隊であり、その中でも「空の女帝」の君臨する「エウロス飛行隊」が最強である。3部隊・72機の稼働機を有し、その誰もが超一級のエースである。なお、その3部隊というのは、エンプレス隊(カティ・メラルティン大佐)、ナルキッソス隊(エリオット中佐)、ジギタリス隊(マクラレン中佐)である。どの部隊でも一個艦隊を凌ぐと言われる力を持っており、とにかく全員が全員、規格外に強いのである。

 ほかにも「ボレアス」「ノトス」「ゼピュロス」飛行隊がいるが、さしあたり本作では出番がない。が、(エウロス程ではないにしても)彼らもまた超一流である。

 空軍(参謀部第三課)は、「歌姫計画(セイレネス・シーケンス)」の一環として超高高度戦略攻撃機テラブレイカーを開発し、それを用いた「テラブレイク計画」を進めているのだが、その内容は参謀部第三課の部外秘となっており、本作ではほぼ語られない(マリオンが知ることができるはずもない)。空軍は空軍で「歌姫」によって海軍に奪われた発言力を取り返そうと、躍起になっているのである。
セイレネス関連情報
セイレネスについて
 「セイレネス」というのは「歌姫(セイレーン)」をトリガーとして発動するシステムのことである。その時に引き出される能力は、歌姫の能力に比例する(ただし、システムの限界以上には出力できない) セイレネスというシステムがヤーグベルテにもたらされたのは2080年。最初の「歌姫」であるヴェーラ・グリエールとレベッカ・アーメリングが登場したのは2081年。ただし、システムも歌姫も、どこからもたらされたのかは一切不明である。ヴェーラ、レベッカ共にその頃の記憶は改竄されており、また、2081年以前に彼女らに関わった人間の記憶もまた正しくはない。

 「セイレネス」はあまりにも巨大な力であり、アーシュオンの超兵器をもものともしないほどの強さを持っている。……のだが、それは「D級歌姫(=ディーヴァ)」と呼ばれるヴェーラとレベッカであったからこそだということが、2095年以降の、歌姫のみで編成された艦隊での戦いで判明している。

 セイレネス技術担当将校であるブルクハルトによると、「ブラックボックスが多すぎる」とのことであり、科学的な技術詳細は不明のままである。開発元はホメロス社であり、肝心な部分についてはすべて同社で作業をしてしまう。そこには政府の強い意向が働いているらしい。

 ブルクハルトの推測によると、セイレネスというのはエネルギー変換システムであり、ありとあらゆるエネルギーを任意の形態に変化させることのできるシステム――らしい。ゆえに、兵器の持つ性能を何十倍、あるいは何百倍に拡張して、任意の地点に再展開、それを攻撃に利用するというモジュールを幾つも備えている。

 また、知覚についても極めて鋭敏化されるため、水平線の遥か彼方まで見通すこともできる可能性があると、ブルクハルトは分析した。そして実際に、それは証明されている。

 そしてまた、ヴェーラたち有力な歌姫たちは、平時であっても相手の思考を見抜く能力を有する。それは「セイレネス・システム」の影響範囲内に近い程、高まる能力である。まして、戦闘時のようにセイレネスと直接接している時は、「敵」の情報が全て流れ込んでくるほどの一種のテレパス能力が発揮される。
歌姫について
 「歌姫(セイレーン)」とは何か。それは「セイレネスを扱える者」のこと。セイレネスにアクセスするためには、とある因子が必要である。それは後天的に発現する。「歌姫」発現者は、アーシュオンの超兵器による「八都市空襲」が起きた2084年、および、ヴェーラたちの戦艦が戦場に出始めた2088年以降に限られている。セイレネスの発する「歌」と呼ばれる「音」が、その因子に作用して「歌姫」の能力が発現する。

 2096年時点ではヤーグベルテに於いてのみ「歌姫」の発生が確認されているが、実際には世界中で「歌姫」が誕生している。なお、アーシュオンに於ける「歌姫」は「素質者(ショゴス)」と呼ばれている。「歌姫」は極めて強力な兵器であり、各国、とりわけアーシュオンでは、アイスキュロス重工技術本部長アーマイア・ローゼンストックによる研究が盛んに行われている。

 ヤーグベルテでは、その能力に応じて上から「D級(ディーヴァ)」「S級(ソリスト)」「V級(ヴォーカリスト)」「C級(クワイア)」というクラス分けがなされている。2098年末の時点で、C級は300~400名いる(戦死含む)が、V級は6名、S級3名。D級(規格外)は、歴史上ヴェーラ・グリエール、レベッカ・アーメリング、イザベラ・ネーミアの3名である。D級はともかく、S級でも圧倒的に過ぎる戦闘能力を持っている。
超兵器(オーパーツ)
ナイアーラトテップ
 アーシュオンの誇る超兵器。E(初期)型、M(量産)型の他、2096年にはI(改)型が確認されている。大きさは駆逐艦~重巡洋艦(およそ全長300メートル弱)の潜水艦。動力源等一切不明だが、その艦体に幾本もの触手状近接打撃装備があることから、敵味方問わず「クラゲ」と呼ばれることが多い。

 E型もM型も通常艦隊にとっては脅威でしかなく、実際に、E型初出現時(2083年頃)には、たったの一隻のナイアーラトテップによって一個艦隊が殲滅されたという事もあった。核攻撃すら通用しない装甲と、航空母艦を一撃で撃沈せしめる打撃力を有し、かつM型には航空機搭載能力まであり、同じ超兵器であるロイガーやナイトゴーントを射出することもある。

 このナイアーラトテップには、ヤーグベルテ海軍の虎の子の第七艦隊ですら歯が立たないため、必然、歌姫(ヴェーラやレベッカ)の第一・第二艦隊が戦闘を担当することになってしまった。アーシュオンもそうと知っていて、(2090年代に入ってM型の量産体制が完全確立されてからは特に)艦隊の構成に1~2隻(以上)のナイアーラトテップを組み込むのが基本となっている。

 なお、武装は触手(+艦載機)のみである。が、謎の力を持っている場合が多く、触手で殴られてもいないのに沈む艦が出たこともある。が、基本は触手による殴打や引き摺り込み攻撃である。

 なぜ「火器」がないのかというと、それはこの「ナイアーラトテップ」の制御システムに関連している。物語の要点の一つでもあるため重要な部分は伏せるが、アーシュオン技術本部的には「精度の低い遠距離攻撃よりも、確実に仕留められる近接戦闘」という思想がある。秘匿性の高い潜水艦であるため、「歌姫」がいない限り、艦隊の直近に至るまでまず探知されない。そして、気付いた時には艦隊は壊滅しているのだ。

 その一方的殺戮を阻止するために、2085年以降は「歌姫」であるヴェーラ、レベッカによる「支援」が行われており、艦隊の被害は大きく軽減されることになった。この頃からすでに、ヴェーラたちなしには国防が立ち行かなくなっている。
インスマウス(ISMT)
 アーシュオン最強の超兵器。自律型突入自爆兵器。超巨大爆撃機のフォルムから、球体に変形し、超高速で目的地に落下する。それによる破壊力は核兵器をも超え、2084年初頭の「八都市空襲」では文字通り、ヤーグベルテの八つの大都市が灰塵と帰した。レピア市、アレミア市、セプテントリオ市など。この時の空襲の被害者が、主人公であるマリオン(当時4歳)、その親友であるアルマ(当時4歳)、先輩のレネ(当時5歳)といった人物である。

 この未曽有の攻撃が、ヤーグベルテの「専守防衛体制」崩壊の引き金となる。また、ヤーグベルテ全国民に、「インスマウス」の恐怖を植え付けた。マリオンたち「歌姫」の才能のある者たちは独特の「音」を聴いた。

 八都市空襲時はヴェーラたちは未だ学生であり、セイレネス・システムも開発途上であったため何の防御策を講じることもできなかった。なお、インスマウス(ISMT)が使用されたのはこの2084年の一回だけであり、その後はインスマウスによる攻撃は確認されていない。

 本編では全く触れられないが、アーシュオンの事情を言えば、開発元のアイスキュロス重工の技術本部長アーマイア・ローゼンストックと、参謀部の有力者ヒトエ・ミツザキ大佐との間の折り合いがついていなかったというのもある。
ロイガー
 アーシュオンの誇る超兵器の一つ、無人戦闘機。自律制御と言われているが詳細は不明。常時バリアのようなものを展開しており、通常兵器が一切通用しない。形状としては「三角錐」や「円錐」とも言われているが、映像にもノイズが乗ってしまっているためはっきりしたことは不明。通常航空戦力に対して、「特殊航空戦力」と総称される。

 また、ヴェーラたちによれば、ロイガーの出撃時や攻撃時には「音」が聞こえるらしい。

 厄介なのはこれはしばしば前述の「ナイアーラトテップ」に搭載されていることである。迎撃不能な潜水艦に撃墜不能な戦闘機。これにより、ヤーグベルテの沿岸部や艦隊は多大な被害を被ることになる。

 ヤーグベルテ最強の四風飛行隊ですら撃墜されてしまうほどの強力な機動性と攻撃力を有しており、通常艦隊の艦載機ではまるきり歯が立たない。ロイガーやナイトゴーントという超兵器航空機を撃墜できたのは、2096年時点では、「空の女帝」カティ・メラルティン大佐のみである。

 ただし、「歌姫」であるヴェーラやレベッカにしてみれば、ロイガーやナイトゴーントもまた「ただの的」に過ぎない。そしてそれもまた、ヴェーラたちが戦場に出続けなければならない理由となっている。
ナイトゴーント
 アーシュオンの誇る超兵器の一つ、無人戦闘機。ロイガーの完全上位互換機。なお、ヤーグベルテに於いてはどちらも同程度の脅威であるとみなされており、「ロイガーおよびナイトゴーント」とひとくくりにされて表現されていることが多い。

 アーシュオンの構想的には、ロイガーとのハイローミックスがあるのだが、これは来るべき未来に備えた戦略であると言える。本作にはまったく触れられないが、後に出現する「空の歌姫」たちとの決戦を想定して開発された。開発元はやはりアイスキュロス重工、設計主任技術者はアーマイア・ローゼンストック(技術本部長)である。

 ロイガーよりも高価らしく、ナイトゴーント1:ロイガー5くらいの割合で構成されていることが多い。

 たった一機で戦況を変えてくる超兵器だが、それでもヴェーラのような超強力な歌姫の前にはただの的である。無人機ゆえの超高機動を見せる。また、空軍で唯一この超兵器と戦える「空の女帝」カティ・メラルティンにとっても、ナイトゴーントはさしたる脅威ではないらしい。
その他
準備中
Now preparing...

私の次の世代の君へ。
 今どき手紙だなんて、とは、私だって思うよ。
 でも、電子の海ではAIが邪魔だから迂闊なことは残せないし、そもそもあそこではこうして偶然には見つけてもらえないでしょ? だからね、私は今、慣れない紙に向かって、慣れないペンを握りしめているんだ。
 これはね、とても長い物語になるんだ。記録じゃなくて、物語だよ。
 艦隊司令官を退くにあたって、私が生きたことの証明として、私の思ってきたこと、感じてきたことを、こうして書き残しておきたいと思ったんだ。君が見つけてくれると信じながらね。
 紙媒体もいいものだよね。今ではもうほとんど見なくなってしまったけれど。
 ああ、そうだ。
 この舞台の幕を上げる前に、少しだけ、語らせてもらっていいかな?
 私は士官学校の「歌姫養成科」の四期生で、卒業と同時に海軍に入ったんだ。
 「歌姫」っていうのはね、いわゆるひとつの能力者のことだよ。
 「セイレネス」というシステムを使って敵の侵略から海を守る――それが私たち、歌姫の役割だったんだ。というより、これは歌姫にしかできない役割だった。
 歴史上初めて現れた、そして最強の歌姫は、たったの二人で何年間もこの国を守り続けてきたんだよ。それは私にとっても、とても、とても誇らしいことだったんだ。
 私はこの最強の歌姫――ディーヴァの二人と十歳の時に出会っていて、それまでもそれからも、ずっとずっと憧れていて。二人があの時のことを覚えていてくれたのは、ほんとうに嬉しかったな。だからね、士官学校を出たらその二人に近づける――そう思うだけで、大抵のことには耐えられると思っていたんだ。
 育った施設には友人の一人もいなかった私だけど、士官学校ではたくさんのかけがえのない人たちと出会えた。友だちもたくさんできた。みんな戦友だよ。戦いの中で死んでしまった子もたくさんいるけれど、みんな私の大事な友だちだった。
 ああ、そうそう。(こうして文字にするとちょっとだけ恥ずかしいけれど)愛する人もできたんだ。なんと、そう! 私の初恋の人! だけど、今でもちゃんと愛してる。羨ましいでしょ? その人も「歌姫」なんだ。驚いた?
 身体や心の性別なんて、どうでもいいことでしょ? 私たちは本当に惹かれ合ったんだから。それ以上でも、以下でもないんだよ。ただ、愛してる。本当に愛してる。それだけで十分だよね?
 でも、だからこそ、大切な人がたくさんできたからこそ、できてしまったからこそ、この世界はすごく悲しかったんだよ。
 何年経っても戦争はちっとも終わる気配はなくって。
 ディーヴァたちがギリギリの状態で守ってくれていたのに、誰も戦争を終わらせようだなんて考えてなくて。
 そこに、戦争継続のメソッドがはたらいていたなんて。
 まだまだ若すぎた――というより幼すぎた私には知りようもなくて。
 ……うん、そうだね。前口上はこのくらいにしておこうかな。
 それじゃあ、静かに舞台の幕を上げるとしようか。
歌姫艦隊総司令官 マリオン・シン・ブラック
 二〇八八年六月十二日、現地時間・午前五時――。
 四隻の駆逐艦を随伴しているのは、二隻の超巨大戦艦——その全長は航空母艦の二倍にも達する。白銀に輝く流線型の艦体は、未だこの世に現れたことのないフォルムだった。補給と戦艦のシステムチェックを済ませた駆逐艦たちは、一隻、また一隻と戦艦の元を離れ、未だ暗い西の海へとそっと消えていく。曙光に向かって進む二隻の戦艦は、豪勢な沈黙を|纏《まと》いながら《《その時》》を待っていた。
『レベッカよりヴェーラ。敵艦隊《《視認》》。真東に二百二十キロ。総数三個、航空母艦六隻。推定航空戦力百五十以上。状況進行、シーケンス、1・1・2、バトコンレベル最大』
『さすがだね、ベッキー。今、わたしも《《視認》》した。敵、全個体への|識別子付与《マークアップ》を開始。|最優先攻撃目標《トップ・プライオリティ・ターゲット》、航空母艦六隻。ベッキーには|手筈《プロシージャ》通りに|AA《対空》戦闘を任せる。|衛星《サテライト》|隠蔽《コンシール》解除、敵艦隊にこちらの|位置《ロケーション》を伝えよう』
『レベッカ了解。敵艦隊にこちらの座標を打電。ヴェーラ、|敵通信回線《ライン》奪える? |生中継《ライヴ》よ?』
『わたしたちの《《デビュー戦》》、だからね。せいぜい華々しく飾ろうじゃないか……』
 二隻の戦艦が海原を断ち割りながら東へと進む。
 ほどなくしてヴェーラが「よし」と声を発する。
『ヴェーラよりレベッカ。|通信回線《ライン》を奪った。ついでに|翻訳《トランス》も噛ませて本国に送信しよう』
『敵航空戦力の|発艦《テイク・オフ》を確認したわ、|警戒《ビウェア》』
『|AA《対空》戦闘はきみの|仕事《ビジネス》だろ、ベッキー』
『戦艦、傷つけたらいろんな人から怒られるわよ』
『……ちぇっ、それもそうだね。こういう時は、まずは敵航空戦力を殲滅。|然《しか》る後に艦隊を撃滅。でいいんだっけ、ベッキー』
『もう、まったく! それを今になって確認する? |そうよ《イエス》、|それでいいわ《アファーマティヴ》』
 程なくして、東の空から百を超える攻撃機が飛来してきた。航空戦力が主力の時代に、いくら超々弩級とはいえ戦艦が二隻だけというのは――ヴェーラたち以外の目には――自殺行為以外のなにものにも見えなかった。
『何だ、本当にこの二隻だけか?』
 敵の|飛行士《アビエイター》の通信が聞こえてくる。
『こいつ、|戦艦《バトルシップ》……なのか?』
『何にしてもヤーグベルテの新兵器様だ。全機、油断するな』
 その言葉を聞いて、ヴェーラが言った。
『艦長、全|FCS《火器管制システム》こっちに』
『アイ・マム。|全武装《オール・ウェポンズ》、トリガー、ユー・ハヴ』
『サンキュー、アイ・ハヴ! ベッキー、|準備はいい《アー・ユー・レディ》?』
『|もちろん《オフ・コース》。|始めましょう《レッツ・ゲット・スターテド》、ヴェーラ』
『オーケー……! |幕を上げよう《レイズ・ザ・カーテン》……!』
 ヴェーラは一呼吸置いた。その間にも攻撃機たちは急速に接近してきている。対艦ミサイルも放たれていた。数秒の猶予もない。
 その時――。
『セイレネス|発動《アトラクト》!』
 ヴェーラとレベッカが同時にそう叫んだ。水晶のような《《音》》が、白く毛羽立った海面に波紋を作る。
 同時に、白銀の艦の装甲が次々と|展開《スライド》し、中からオーロラグリーンの輝きが火焔のように吹き出した。それは瞬く間に戦艦を中心にして半球状に広がり、それに触れた対艦ミサイルを音もなく《《消滅》》させた。
『なんだ、ミサイルが消えたぞ!?』
『何か攻撃を受けたのか?』
『いや、変な光があるだけ――』
 先陣を切って雷撃態勢に入っていた三機だったが、その三機はその次の瞬間には粉砕されていた。戦艦の火器は未だ一つも火を吹いていないのにも関わらずだ。
『全機、|散開《スキャッター》! 全方向から仕掛けろ!』
『しかし隊長、解析を待ってからのほうが……』
『新兵器を見たからと言って、はいそうですかと逃げ帰れるものか! 俺の|亜音速魚雷《サブソニック・トーピード》で片付ける!』
『それは司令部の使用許可がまだ……!』
『そんなことを言っていられる場合か! お前の隊は|艦橋《ブリッジ》を潰せ!』
 その会話を聞いて、ヴェーラは|溜息《ためいき》混じりに提案する。
『……ベッキー、|手筈《プロシージャ》なんてまるっと無視してさ、二人でダンスしようよ』
『勝手なことしたら怒られるわよ』
『どうせエディットも聞いてるんでしょ、わたしたちのこの会話。んで、まだ怒られてないんだから大丈夫、大丈夫。|一緒に踊ろう《レット・アウト・ユア・ハンド》!』
 そんな会話の間にも、敵航空戦力からの|熾烈《しれつ》な攻撃は続いている。しかし、戦艦には一発の機銃弾も届かない。全てがオーロラのような光に当たった瞬間にふわりと消えてしまうのだ。
『レベッカよりヴェーラ。|AA《対空》戦闘・|第二段階《セカンドステージ》へ|移行《シフト》。主目的、全機撃墜』
『第二幕、敵航空戦力の掃滅、|了解《アイ》。逃げる奴らは?』
『|例外なし《ノー・エクセプションズ》』
『《《撃墜》》でいいんだよね』
『|肯定《アファーマティヴ》』
 航空戦力を粉砕しながら、二隻の戦艦は東へ東へと進んでいく。実際に、航空戦力は――それまでの戦場の花形だった彼らは――戦艦に対して全く歯が立たなかった。百六十を超える航空機はそのことごとくを戦闘不能にされて、深い海へと消えていった。
『運が良ければ、第七艦隊に助けてもらえる』
 ヴェーラはそう呟いた。この《《舞台》》はもう終わった。次なる戦場はさらに東――。
 敵艦隊は早くも逃走の態勢に入っていた。それはそうだ。虎の子の航空部隊が十五分と経たずに殲滅されてしまったのだから。だが、ヴェーラとレベッカには、彼らを逃がすつもりなどは毛頭ない。
『アーシュオンの艦隊に告ぐ。逃走は無意味だ。わたしたちの方が速い。正面からわたしたちにぶつかるというのならば、ある程度は取りこぼしも出るだろう! だけど、それでも《《逃げる》》と言うのなら、わたしたちはきみたちを、《《ひとり残らず》》、《《殺す》》!』
 ヴェーラの鋭い警告を受けても、アーシュオンの艦隊は動きを止めない。ひたすら東へと逃げていく。
『ちっ!』
 ヴェーラの舌打ちが響く。
『こんな中途半端な戦果じゃ、戦争は止められない!』
『ヴェーラ、落ち着いて。今は落ち着いて。私たちは任務を遂行するだけ。落ち着いて』
『きみが落ち着けって連呼する時ってさ、きみ自身が落ち着いてない時だよね』
『……かもね』
 数時間と経たずに、東の水平線上に敵の艦隊が見えてくる。彼我の距離は数十キロ。もはや目視照準ですら当てられる距離だった。
『アーシュオンのきみたちに、わたしはもう一度警告する。このまま逃げるって言い張るのなら……わたしたちは、きみたちを《《皆殺し》》にしなくちゃならないんだ。だから、どうか、お願いだよ。|死物《しにもの》狂いでかかってきて!』
 ヴェーラの声に、敵の艦隊は背中を向けたまま何も応えない。通信にもノイズが乗っていてよく聞き取れない。ヴェーラはまた舌打ちした。
『逃げられないんだよ! わたしたちからは! わたしたちの《《歌》》からは! 決して!』
『ヴェーラ、警告はもう十分したわ……』
 レベッカの平坦な声がヴェーラの叫びを止める。
『今は彼らだけでも叩きましょう。彼らはアーシュオンの最精鋭。彼らが壊滅したら、それだけでしばらくは戦えないはずよ』
『……|了解《アグリー》。そうだね。なら、そろそろ始めよう……|殲滅戦《アニヒレーション》をね』
『|手筈通りに《オベイ・ザ・プロシージャ》』
 冷えきったレベッカの言葉を合図にでもしたかのように、敵の駆逐艦が数隻、反転して向かってくる。
『なんてことを! 時間稼ぎのつもりか!』
 ヴェーラは苛立ちを隠さない。駆逐艦たちを捨て駒にして、空母だけでも逃がそうという算段なのは見え見えだった。だが、駆逐艦数隻程度では、ヴェーラたちの前では全くの無力だった。レベッカの戦艦が前に出る。
『モジュール・グングニル|発動《アトラクト》!』
 その|清麗《せいれい》たる一声。レベッカから放たれた美しい《《音の波》》と共に、オーロラグリーンの粒子が槍と化して、駆逐艦を次々と貫いた。抵抗の一つも許されずに、駆逐艦たちは轟沈させられていく。進路上にいた大破した駆逐艦は、戦艦の巨体によってすり潰された。それにも関わらず、戦艦は全くの無傷だった。これでもかとその白銀の威容を見せつけながら、戦艦はついに敵の航空母艦を直接照準で補足する。水平射でも当たる距離だ。
『ねぇ、ベッキー。こんなに近づく必要ってあるの?』
『ないけど、近づかないと一枚の《《絵》》に収まらないでしょ』
『戦争って、いつから|娯楽《サーカス》になったんだっけ?』
『……|今から、なるのよ《ジャスト・ナウ》』
 レベッカは嘆息する。幾十年と負け続けてきたヤーグベルテという国家に反撃の|狼煙《のろし》が上がる時が、戦争のパラダイムシフトが発生する瞬間が、今まさに訪れる。この歴史的大事件を人々の記憶に焼き付けるために用意されたのが、この大艦隊を撃滅するという|舞台演出《ステージ・プロダクション》だ。そしてそこで、完全なる圧倒性、すなわち《《無敵》》であることを証明することが必要だった。それは軍の権威のため、政府の支持率のため——つまり、そういうことだ。
『ベッキー……覚悟はできてる?』
『あなたこそ、今度こそ私の手を汚させる覚悟はできた?』
『言うねぇ、きみも』
 ヴェーラは乾いた声で笑い、そして急に声の温度を下げた。
『シーケンス、8・8・8、突入確認。ヴェーラより参謀部、|論理回線《ロジカルライン》スタンバイ、|同期《シンクロ》でき次第、全システムログを転送する。これより、本艦セイレーン|EM《イーエム》-|AZ《エイズィ》およびウラニアにて、状況を|第三段階《サードステージ》に|移行《シフト》させる。使用可能なありとあらゆる|手段《メソッド》の選択許可を』
『参謀部第六課ハーディより、ヴェーラおよびレベッカ。ルフェーブル大佐より、全システム解放の許可は下りている。速やかに状況を遷移されたし』
『了解。これより《《セイレネス》》・《《ロンド》》を開始する』
 《《音》》が広がる。静かなはずの海原を、得体の知れない、しかし子守唄のように柔らかな《《音》》が、覆い尽くす。空海域を覆い尽くしていたオーロラグリーンの粒子が、一息に二隻の戦艦へと引き戻されていく。敵の艦隊はなおも逃げようとする。しかし戦艦たちは、信じ|難《がた》いスピードで距離を詰めていく。ミサイルや砲撃が襲いかかってくるものの、二隻の戦艦は|鎧袖一触《がいしゅういっしょく》と言わんばかりに打ち払い、消していく。
『セイレーン|EM《イーエム》-|AZ《エイズィ》、セイレネス|再起動《リブート》! |安全装置解除《シフト・トゥ・エクストラモード》! 全戦闘メソッド|解放《アンロック》! メソッド|初期化《イニシャライズ》、|成功確認《サクセス》! 万事上々、さぁ、剣を抜こう! |天使環《ディヴァイン・ゲート》、および、|装甲翼《セラフィム・セブン》|展開《レドネス》!』
『ウラニア、セイレネス|再起動《リブート》! |制御装置全解放用意《トリガー・オブ・リミット・ブレイク・レディ》。全戦闘メソッド|解放《アンロック》! メソッド|発動準備完了《アクティヴェイション・コンプリート》。全システム|異常なし《レディ・アンド・グッド》。いきます! |天使環《ディヴァイン・ゲート》展開、|装甲翼《セラフィム・セブン》、開け!』
 二隻の戦艦がめまぐるしく形を変えていく。装甲がさらに大きく開き、そこからキラキラと輝く蒸気が音を立てて|溢《あふ》れ出す。海面が燦然と色を変える。後部装甲が次々と|分離《パージ》し、複雑に|結び合わ《リンク》され、やがて海から突き上がる半円形の――|天使環《ディヴァイン・ゲート》へと姿を変えた。その|環《ゲート》から|焔《ほむら》のように噴き出したオーロラグリーンの粒子によって、七枚の光の翼が生み出された。
『ベッキー、良い?』
『……覚悟は、できてる』
『わたしも一緒。心配ないよ』
 ヴェーラの囁き声。レベッカの声には少し緊張がある。
 そして戦艦は更に変形する。前部の装甲が音もなく幾つもに分離して広がった。展開した装甲が滑るように|伸長《エクステンド》していく。そのたびにあの光の粒子がふわりふわりと舞い踊る。やがて原型がなくなるほどに姿を変えた二隻の戦艦は、今や艦の半分にも渡る長さの三連装誘導砲身を敵艦隊に向けていた。今なお逃げるのをやめない敵艦隊を、戦艦たちはもう追わない。
『|雷霆《ケラウノス》、|充填完了《チャージド・イナフ》。ベッキーは?』
『|アダマスの鎌《ハルパー》、準備……できてる』
 そうか、なら、行くよ――ヴェーラは呟いた。
 わかったわ――レベッカが応えた。
『|わたしたち《セイレーン》の歌で、一隻残らず沈むがいい!』
 ヴェーラの声と共に、二隻の戦艦の艦首から強烈な光が放たれた。それはまっすぐに敵総旗艦である航空母艦に突き刺さり、そして、海域を覆い尽くすほどに|峻烈《しゅんれつ》に|爆《は》ぜた。光の暴風が海上を荒し回り、それに触れた艦船は尽く|炎《ほむら》を上げて、輝く海の中にどす黒く沈んでいった。
 百五十隻もの大艦隊は、数分と持たずに|潰滅《かいめつ》した。
 ――これが二人の|歌姫《セイレーン》の、《《兵器》》としての|凄烈《せいれつ》なデビューだった。